インプット メソッド エディタ(IME)は、ユーザーがテキストを入力できるようにするユーザー コントロールです。Android は、拡張可能なインプット メソッド フレームワークを備えています。これにより、画面キーボードや音声入力など、代替インプット メソッドをユーザーに提供するアプリを作成できます。IME をインストールした後、ユーザーはシステム設定から IME を選択して、システム全体で使用できます。一度に有効にできる IME は 1 つのみです。
Android システムに IME を追加するには、InputMethodService
を拡張するクラスを含む Android アプリを作成します。また、通常は、オプションを IME サービスに渡す「設定」アクティビティを作成します。設定 UI を定義して、システム設定の一部として表示することもできます。
このページでは、次のトピックについて説明します。
- IME のライフサイクル
- アプリ マニフェストで IME コンポーネントを宣言する
- IME API
- IME UI を設計する
- IME からアプリにテキストを送信する
- IME サブタイプの使用
- IME に関するその他の考慮事項
IME の開発を行ったことがない場合は、まずオンスクリーン インプット メソッドの紹介記事をご覧ください。
IME のライフサイクル
次の図は、IME のライフサイクルを示しています。
以降のセクションでは、このライフサイクルに沿って、IME に関連付けられる UI とコードを実装する方法について説明します。
マニフェスト内で IME コンポーネントを宣言する
Android システムにおける IME は、特別な IME サービスを含む Android アプリです。アプリのマニフェスト ファイルは、サービスを宣言し、必要な権限をリクエストして、action.view.InputMethod
アクションに合致するインテント フィルタと、IME の特性を定義するメタデータを提供する必要があります。また、システム設定から起動できる「設定」アクティビティを定義することで、ユーザーが IME の動作を変更できる設定インターフェースを提供できます。
IME サービスを宣言するスニペットを以下に示します。このスニペットは、サービスが IME をシステムに接続できるようにする BIND_INPUT_METHOD
権限をリクエストして、android.view.InputMethod
アクションに合致するインテント フィルタを設定し、IME のメタデータを定義します。
<!-- Declares the input method service. --> <service android:name="FastInputIME" android:label="@string/fast_input_label" android:permission="android.permission.BIND_INPUT_METHOD"> <intent-filter> <action android:name="android.view.InputMethod" /> </intent-filter> <meta-data android:name="android.view.im" android:resource="@xml/method" /> </service>
次のスニペットは、IME の設定アクティビティを宣言しています。このスニペットには、対象アクティビティが IME アプリのメイン エントリ ポイントであることを示す ACTION_MAIN
のインテント フィルタがあります。
<!-- Optional: an activity for controlling the IME settings. --> <activity android:name="FastInputIMESettings" android:label="@string/fast_input_settings"> <intent-filter> <action android:name="android.intent.action.MAIN"/> </intent-filter> </activity>
また、直接 UI から IME の設定にアクセスできるようにすることもできます。
インプット メソッド API
IME に固有のクラスは、android.inputmethodservice
パッケージと android.view.inputmethod
パッケージに含まれています。キーボード文字を処理するうえで、KeyEvent
クラスが重要です。
IME の中心部分は、サービス コンポーネントです。これは、InputMethodService
を拡張するクラスです。このクラスは、通常のサービス ライフサイクルを実装する機能に加えて、IME の UI を提供し、ユーザー入力を処理し、フォーカスがあるフィールドにテキストを配信するためのコールバックを備えています。デフォルトでは、IME の状態と表示設定を管理し、現在の入力フィールドと通信するための実装のほとんどの部分を、InputMethodService
クラスによって実現できます。
以下のクラスも重要です。
BaseInputConnection
-
InputMethod
から入力を受信するアプリケーションへの通信チャネルを定義します。このクラスを使用すると、カーソルの周囲のテキストを読み取り、テキスト ボックスにテキストをコミットし、未加工のキーイベントをアプリに送信できます。アプリは、InputConnection
ベース インターフェースを実装するのではなく、このクラスを拡張する必要があります。 KeyboardView
- キーボードをレンダリングし、ユーザー入力イベントに応答する
View
の拡張機能です。キーボード レイアウトは、XML ファイルで定義可能なKeyboard
のインスタンスによって指定します。
インプット メソッド UI を設計する
IME には、入力ビューと 候補ビューという 2 つの主要な視覚要素があります。実装する必要があるのは、設計する入力方法に関係する要素だけです。
入力ビュー
入力ビューは、ユーザーがキークリック、手書き、ジェスチャーなどの形式でテキストを入力する UI です。IME が初めて表示されたとき、システムは onCreateInputView()
コールバックを呼び出します。このメソッドの実装で、IME ウィンドウ内に表示するレイアウトを作成し、システムにレイアウトを返します。次のスニペットは、onCreateInputView()
メソッドの実装例を示しています。
Kotlin
override fun onCreateInputView(): View { return layoutInflater.inflate(R.layout.input, null).apply { if (this is MyKeyboardView) { setOnKeyboardActionListener(this@MyInputMethod) keyboard = latinKeyboard } } }
Java
@Override public View onCreateInputView() { MyKeyboardView inputView = (MyKeyboardView) getLayoutInflater().inflate(R.layout.input, null); inputView.setOnKeyboardActionListener(this); inputView.setKeyboard(latinKeyboard); return inputView; }
この例の MyKeyboardView
は、Keyboard
をレンダリングする KeyboardView
のカスタム実装のインスタンスです。
候補ビュー
候補ビューは、ユーザーが選択できる単語の修正候補または入力提案を IME が表示する UI です。IME ライフサイクルの中で、候補ビューを表示する準備が整うと、システムは onCreateCandidatesView()
を呼び出します。このメソッドの実装では、単語の候補を表示するレイアウトを返すか、何も表示しない場合は null を返します。デフォルトの動作は null レスポンスであるため、候補を提示しない場合、このメソッドを実装する必要はありません。
UI 設計に関する考慮事項
このセクションでは、IME の UI 設計に関する考慮事項について説明します。
さまざまな画面サイズを処理する
IME の UI は、さまざまな画面サイズに合わせてスケーリングし、横向きと縦向きの両方を処理できる必要があります。非フルスクリーン IME モードでは、テキスト フィールドおよび関連コンテキストをアプリが表示するのに十分なスペースを残し、IME が占有する領域を画面の半分以下にします。フルスクリーン IME モードでは、この点は問題になりません。
さまざまな入力タイプを処理する
Android テキスト フィールドでは、自由形式テキスト、数字、URL、メールアドレス、検索文字列など、さまざまな入力タイプを個々に設定できます。新しい IME を実装する場合は、各フィールドの入力タイプを検出して、その入力タイプに適したインターフェースを提供します。ただし、ユーザーが入力タイプに対して有効なテキストを入力したかどうかをチェックするように IME をセットアップする必要はありません。これは、テキスト フィールドを所有するアプリケーションが行います。
たとえば、Android プラットフォームのテキスト入力用に Latin IME が提供するインターフェースは次のとおりです。
以下は、Android プラットフォームの数値入力用に Latin IME が提供するインターフェースです。
入力フィールドがフォーカスを受け取って IME が起動されると、システムは onStartInputView()
を呼び出し、入力タイプと各種のテキスト フィールド属性に関する詳細情報を格納した EditorInfo
オブジェクトを渡します。このオブジェクトの inputType
フィールドには、テキスト フィールドの入力タイプが含まれています。
inputType
フィールドは、さまざまな入力タイプ設定のビットパターンを格納する int
です。テキスト フィールドの入力タイプをテストするには、次のように定数 TYPE_MASK_CLASS
でマスクします。
Kotlin
inputType and InputType.TYPE_MASK_CLASS
Java
inputType & InputType.TYPE_MASK_CLASS
入力型のビットパターンには、次のいずれかの値を指定できます。
TYPE_CLASS_NUMBER
- 数値を入力するためのテキスト フィールド。図 3 に示すように、Latin IME は、このタイプのフィールドに対してテンキーを表示します。
TYPE_CLASS_DATETIME
- 日時を入力するためのテキスト フィールド。
TYPE_CLASS_PHONE
- 電話番号を入力するためのテキスト フィールド。
TYPE_CLASS_TEXT
- サポートされている文字を入力するためのテキスト フィールド。
これらの定数について詳しくは、InputType
のリファレンス ドキュメントをご覧ください。
inputType
フィールドには、以下のようなテキスト フィールド型のバリアントを示す別のビットを含めることができます。
TYPE_TEXT_VARIATION_PASSWORD
- パスワードを入力するための
TYPE_CLASS_TEXT
のバリアント。インプット メソッドは、実際のテキストの代わりに装飾記号を表示します。 TYPE_TEXT_VARIATION_URI
- ウェブ URL および各種 URI(Uniform Resource Identifier)を入力するための
TYPE_CLASS_TEXT
のバリアント。 TYPE_TEXT_FLAG_AUTO_COMPLETE
- 辞書や検索などの機能に基づいてアプリが「オートコンプリート」するテキストを入力するための
TYPE_CLASS_TEXT
のバリアント。
このようなバリアントをテストするときは、適切な定数で inputType
をマスクします。使用可能なマスク定数のリストについては、InputType
のリファレンス ドキュメントをご覧ください。
テキストをアプリに送信する
ユーザーが IME を使用してテキストを入力した場合、個々のキーイベントを送信するか、アプリのテキスト フィールド内でカーソルの周囲のテキストを編集することにより、アプリにテキストを送信できます。どちらの場合も、InputConnection
のインスタンスを使用してテキストを配信します。このインスタンスを取得するには、InputMethodService.getCurrentInputConnection()
を呼び出します。
カーソルの周囲のテキストを編集する
既存のテキストの編集を処理する場合、BaseInputConnection
にある以下のメソッドが役に立ちます。
-
getTextBeforeCursor()
- 現在のカーソル位置の前にある、指定された数の文字を格納する
CharSequence
を返します。 -
getTextAfterCursor()
- 現在のカーソル位置の後ろにある、指定された数の文字を格納する
CharSequence
を返します。 -
deleteSurroundingText()
- 現在のカーソル位置の前後にある指定数の文字を削除します。
-
commitText()
- テキスト フィールドに
CharSequence
をコミットして、新しいカーソル位置を設定します。
たとえば、次のスニペットは、カーソルの左側にある 4 文字を「Hello!」というテキストに置き換える方法を示しています。
Kotlin
currentInputConnection.also { ic: InputConnection -> ic.deleteSurroundingText(4, 0) ic.commitText("Hello", 1) ic.commitText("!", 1) }
Java
InputConnection ic = getCurrentInputConnection(); ic.deleteSurroundingText(4, 0); ic.commitText("Hello", 1); ic.commitText("!", 1);
commit 前のテキスト作成をサポート
IME がテキストを予測する場合や、記号や単語を入力する際に複数の手順が必要となる場合は、テキスト フィールドに進行状況を表示し、ユーザーが単語をコミットしたら、部分的な入力内容を完成版テキストに置き換えることができます。setComposingText()
にテキストを渡す際にspan を追加して、テキストに特別な処理を施すことができます。
次のスニペットは、テキスト フィールドに進行状況を表示する方法を示しています。
Kotlin
currentInputConnection.also { ic: InputConnection -> ic.setComposingText("Composi", 1) ic.setComposingText("Composin", 1) ic.commitText("Composing ", 1) }
Java
InputConnection ic = getCurrentInputConnection(); ic.setComposingText("Composi", 1); ic.setComposingText("Composin", 1); ic.commitText("Composing ", 1);
ハードウェア キーイベントをインターセプトする
インプット メソッド ウィンドウは明示的なフォーカスを持ちませんが、ハードウェア キーイベントを最初に受け取ったとき、それを使用するかアプリに転送するかを選択できます。たとえば、方向キーを使用して、コンポーズ中に候補を選択する UI 内を移動できます。また、戻るキーをトラップして、入力メソッド ウィンドウから発生したダイアログを閉じることもできます。
ハードウェア キーをインターセプトするには、onKeyDown()
と onKeyUp()
をオーバーライドします。
自身で処理しないキーについては、super()
メソッドを呼び出します。
IME サブタイプを作成する
サブタイプを使用すると、IME がサポートしている複数の入力モードと言語を公開できます。サブタイプは以下を表します。
- ロケール(en_US や fr_FR など)
- 音声、キーボード、手書きなどの入力モード
- テンキーや QWERTY キーボード レイアウトなど、IME に固有のその他の入力スタイル、フォーム、プロパティ
モードには任意のテキスト(「keyboard」、「voice」など)を使用できます。サブタイプは、これらの組み合わせをエクスポーズすることもできます。
サブタイプ情報は、通知バーから利用できる IME 切り替えダイアログと IME 設定で使用されます。また、この情報により、フレームワークは IME の特定のサブタイプを直接表示できます。IME を作成するときは、サブタイプ機能を使用します。これにより、ユーザーが IME の言語とモードを識別して切り替えることができるためです。
サブタイプを定義する際は、インプット メソッドのいずれかの XML リソース ファイルで <subtype>
要素を使用します。次のコード スニペットは、2 つのサブタイプ(US English 言語 / 地域のキーボード サブタイプと、フランスの French 言語 / 地域のキーボード サブタイプ)を持つ IME を定義しています。
<input-method xmlns:android="http://schemas.android.com/apk/res/android" android:settingsActivity="com.example.softkeyboard.Settings" android:icon="@drawable/ime_icon"> <subtype android:name="@string/display_name_english_keyboard_ime" android:icon="@drawable/subtype_icon_english_keyboard_ime" android:languageTag="en-US" android:imeSubtypeMode="keyboard" android:imeSubtypeExtraValue="somePrivateOption=true" /> <subtype android:name="@string/display_name_french_keyboard_ime" android:icon="@drawable/subtype_icon_french_keyboard_ime" android:languageTag="fr-FR" android:imeSubtypeMode="keyboard" android:imeSubtypeExtraValue="someVariable=30,someInternalOption=false" /> <subtype android:name="@string/display_name_german_keyboard_ime" ... /> </input-method>
サブタイプが UI 内で正しくラベル付けされるようにするには、%s を使用して、サブタイプのロケールラベルと同じサブタイプ ラベルを取得します。これを次の 2 つのコード スニペットに示します。最初のスニペットは、インプット メソッドの XML ファイルの一部を示しています。
<subtype android:label="@string/label_subtype_generic" android:imeSubtypeLocale="en_US" android:icon="@drawable/icon_en_us" android:imeSubtypeMode="keyboard" />
次のスニペットは、IME の strings.xml
ファイルの一部を示しています。インプット メソッドの UI 定義でサブタイプのラベルを設定するために使用される文字列リソース label_subtype_generic
は、次のように定義されます。
<string name="label_subtype_generic">%s</string>
この設定により、サブタイプの表示名とロケール設定が一致します。たとえば、英語のロケールの場合、表示名は「英語(米国)」になります。
通知バーから IME サブタイプを選択する
Android システムは、すべての IME がエクスポーズするすべてのサブタイプを管理します。IME サブタイプは、所属する IME のモードとして扱われます。次の図に示すように、ユーザーは通知バーまたは設定アプリから、利用可能な IME サブタイプのメニューに移動できます。
システム設定から IME サブタイプを選択する
ユーザーは、システム設定の [言語と入力] 設定パネルで、サブタイプの使用方法を指定することもできます。
IME サブタイプを切り替える
キーボード上の地球型の言語アイコンなどの切り替えキーを提供することで、ユーザーが IME サブタイプを簡単に切り替えられるようにすることができます。これにより、キーボードの操作性が向上し、ユーザーにとって便利になります。この切り替えを有効にするには、次の操作を行います。
- インプット メソッドの XML リソース ファイル内で、
supportsSwitchingToNextInputMethod = "true"
を宣言します。宣言は次のコード スニペットのようになります。<input-method xmlns:android="http://schemas.android.com/apk/res/android" android:settingsActivity="com.example.softkeyboard.Settings" android:icon="@drawable/ime_icon" android:supportsSwitchingToNextInputMethod="true">
shouldOfferSwitchingToNextInputMethod()
メソッドを呼び出します。- メソッドが true を返した場合は、切り替えキーを表示します。
- ユーザーが切り替えキーをタップしたら、
switchToNextInputMethod()
を呼び出して false を渡します。値が false の場合、どの IME に属しているかにかかわらず、すべてのサブタイプを平等に扱うようシステムに指示します。true が指定された場合は、現在の IME 内でサブタイプを循環させる必要があります。
IME に関する一般的な考慮事項
IME を実装する際は、以下の点も考慮してください。
- IME の UI から直接オプションを設定する方法をユーザーに提供します。
- デバイスに複数の IME がインストールされている可能性があるため、直接インプット メソッド UI から別の IME に切り替える方法をユーザーに提供します。
- IME の UI をすばやく表示します。ユーザーがテキスト フィールドをタップしたらすぐに IME が表示されるように、大きなリソースはプリロードするか、オンデマンドで読み込みます。後でインプット メソッドが呼び出される場合に備え、リソースやビューをキャッシュします。
- インプット メソッド ウィンドウが非表示になった直後に大きなメモリ割り当てを解放し、アプリを実行するのに十分なメモリを確保します。IME が数秒間非表示になっている場合は、遅延メッセージを使用してリソースを解放します。
- ユーザーが IME に関連付けられている言語またはロケールをできるだけ多く入力できるようにします。ユーザーは、パスワードまたはユーザー名で句読点を使用する可能性があります。ユーザーがパスワードを入力してデバイスにアクセスできるように、IME は多様な文字を提供する必要があります。